下り坂

 冷たい風が頬を叩きつける、冬の午後のこと。俺はくたくたなスーツを身につけて、とある有名企業のビルを見上げていた。
 ビルは威圧的に俺を見下ろしている。背後には、どんよりとした曇り空。
 視線を少しずつ下ろしていくと、ぴたりと閉ざされた正面玄関に自分の姿が映っている。なんとなく場違いな感覚がして、意を決した俺は中に飛び込んだ。
「いらっしゃいませ」
 受付嬢がはりつけたような笑顔でお決まりの挨拶を投げてくる。
 用件を告げると、受付嬢はエレベーターを指さし、俺の行くべき階数を告げた。言われるままにエレベーターの方へ向かう。革靴が立てる足音が妙に心をざわつかせた。
 告げられた階数でエレベーターを降りると、そこに待ち受けていたのは小太りの男性だった。
「こちらへどうぞ」
 案内されるままに会議室のような部屋に入り、