いたちごっこ

「福は内っていうじゃない?」
 少女Aが切り出した。
「そうね」
「福は内って願うってことは、今は福がないっていってるようなものじゃない?」
 少女Aはすごい剣幕で主張する。
「それを日本の、いわゆる定型文みたいにしちゃうのって、どうかと思うのよね」
 少女Aは視線を斜めに投げた。
 少女Bはおとなしく聞いていたが、自分の考えがまとまると少女Aの意見に異議を唱えはじめた。
「……そうとは限らないんじゃない?」
 少女Aは少女Bへ視線を移した。少女Bはその視線を受け止めて話し続ける。
「別に、今福があったからって、さらなる福を願っちゃいけないルールはないでしょ?」
 少女Aは唇をかんだ。
「……確かにそうね。あたしの負けだわ」
 少女Aは少女Bに化粧水を手渡した。二人が雑誌の懸賞に応募して当てたものだ。だが、どちらのハガキが当たったのかわからない。だから二人で議論をして、論破した方が化粧水をもらおうと決めたのだった。
 少女Bは嬉しそうに化粧水を見つめる。しかし化粧水のボトルに書いてある謳い文句を見て、少女Bは勢いよく切り出した。
「『あなたの肌を乾燥から守ります』って……熱帯雨林気候に住む私たちには関係ないわよね? そもそもこの言葉って乾燥気候に住んでる人にしか有効じゃないじゃない。そういう普遍的に使えない言葉を謳い文句にするってどうかと思うんだけど」
 少女Bはひととおり主張し終わった後も、小声で悪態をつき続ける。
 やがて少女Aが口を開いた。
「でも、人口の割合を考えてみたら、そんなにおかしいことじゃないわ。あたしたちは圧倒的マイナーなんですもの。化粧品メーカーが多数派に合わせて商品を企画するのは至って普通のことよ」
 少女Aは少女Bから化粧水を奪い取った。少女Bを論破したからだ。得意げに化粧水を見つめる。
「あら、このラベル……」
 少