夫は、ごく普通のサラリーマン。自動車保険の会社で働いていて、会社での評判はそこそこ。収入はいたって普通で、私と息子との3人で不自由なく暮らしていける。
とっても子供思いで、今日も息子の学校の行事に参加してくれた。確か、子供と一緒に美術館へ見学へ行くという行事だったと思う。町内会の仕事で行けなかった私の代わりに、有給をとって参加してくれた。
ごく普通だけど、とても優しい夫。
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眠れない。ぼくは深夜に目が覚めた。
何か飲み物を飲もうと思ってベッドから抜け出した。ふと、机の上に美術館のパンフレットが置いてあるのが見えた。
今日、お父さんと一緒に美術館へ行ってきた。ほとんどの子供はお母さんと同伴で来ていて、お父さん同伴なのはぼくだけだった。
でも、おかしいな。美術館のパンフレットなら、机の引き出しにしまったはずなのに。
不思議だったけど、それより喉が渇いていた。ぼくは台所へ向かうために部屋から出た。
「あれ?」
台所の電気がついている。
まさか……泥棒?
ぼくはおそるおそる台所を覗いた。お父さんがいた。
安心してドアを開こうとして、ぼくはふとお父さんの傍らのテーブルに目を奪われた。そこにあったのは金色のワイングラスみたいなものだった。
確かあれは……。僕はどこかで見た気がするそのワイングラスを、どこで見たか必死に思い出そうとした。
そうだ、美術館だ。どうして、美術館にあったものがここにあるんだろう……。
じっと見ていると、お父さんが携帯電話を取り出して何か話し始めた。
「……か? 例のモノを手に入れた……高値で取引を……」
僕は怖くなって自分の部屋に戻った。
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今日も夫の出勤を見送る。
手には、私が愛情こめて作ったお弁当。会社の人に見られてもはずかしくないように、一生懸命作ったお弁当。
「いってらっしゃい」
私は夫に手を振る。夫も手を振って応えてくれる。
ごく普通だけど、とても優しい夫。